************************************************************************
脳を鍛える
脳を鍛える
立花 隆 著  新潮社  定価1680円(税込)
************************************************************************
 現在日本で「博覧強記」という言葉にふさわしい人物として、博物学派の荒俣宏と、文芸・学術派の著者の名が挙げられるだろう。この「知の巨人」として知られる立花隆が、最近の教育の空洞化を憂い、大学の教養学部の軽視からくる「教養と知識」の低下を批判し、特に東大生のために(文科系・理科系の希望者を対象に)駒場のキャンバスで12回におよぶ講義を行った。本書はそれを書籍としてあらためてリライトしたものである。
 氏が本書で一貫して主張するのは、日本の知識人と謂われる人たちには、いわゆる「教養」が欠けているという事実である。もっともこの考えのベースとなっているのは、イギリスの碩学C・P・スノーの『二つの文化と科学革命』である。ケンブリッジ大学で物理を学び、文芸・芸術の徒と交わり、10冊におよぶ大河小説を書いたスノーは、その経験からイギリスの文学界の人たちがいかに科学の分野に昏く、逆に科学者がいかに文学に疎いかを示し、この2つ文化の交流と融合が重要だと指摘し、賛否両論の渦を巻き起こした。
 立花はみずからをプロフェッショナルなジェネラリストとしているが、彼が学生時代いかに貪欲に幅広く知識を追及してきたかを述べることで、現在の学生の勉学意識の希薄さに言及するとともに、「バランスのとれた知性を持ち、健全な判断力を育て、次の社会の担い手になってもらうためには、高等教育機関において、充実したリベラルアーツ教育がなにより重要」だとして、いまの日本の教育制度のあり方が、結果として「視野狭窄症」に陥っていると警告する。特に現在の中学・高校の選択制度では、大学での専攻にも影響する必須学科が欠落することを指摘する。しかも物理はニュートンまでで、生物はDNAとかゲノムなど分子生物学とまったく無縁で終わり、これでは大学での勉学との乖離を広げるばかりだという。こうしたタテの乖離に加え、(文科・理科系という)ヨコの乖離が絶望的に広がっている現状を警告している。
 こうした絶望的状況を埋める鍵は、やはり『読書』ではないのか。いま『読書』もまた絶望的危機にある。前回の塾長のセミナーで触れたが、『脳を鍛える』とは『脳に負荷を与える』ことである。本を読むことが脳に絶好の負荷を与えることである。「塾友よ、すべからく読書しよう!」<学問のすすめ=読書のすすめ>である。文部省よ、「ゆとり」は定年後で充分なのだ!
ひとつ前へホームへ目次へ次へ