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![]() 北方の夢―近代日本を先駆した風雲児ブラキストン伝 豊田 有恒 著 祥伝社 定価1995円(税込) |
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| 本書は幕末から明治にかけて、終始函館という極北の地にあって活躍したため、日本人にほとんどその名を知られることのなかったトーマス・R・ブラキストンのドキュメンタリータッチ伝記小説で、この12月月13日(木)に縄文塾で特別講師としてお呼びした豊田有恒先生による、構想・執筆に10年あまりを掛けられた畢生の力作である。挿絵・写真がなくて二段組み380ページという大作を一気に読破した。 先日「講演&忘年の会」の打合せに浜田市に先生を訪ねた際に本書をご贈呈戴いたのだが、実は豊田先生の講演が決まってから、先生の著書13冊を読んだ。豊田先生のレパートリーは、SF・時代小説・ノンフィクション・ドキュメンタリーなどなど、たとえば恐竜を始めとした古生物から、韓国・中国問題それにアニメのシナリオまでが加わるという多岐多彩に亘っている。そうした著書から受けた印象や内容分析に評価を試みようとした塾長に対して、この本はまるで冷水を掛けるようなショックを与えるのである。 本書の主人公ブラキストンは、砲の観測術から始まり、(常に実地における)天体観測・地磁気観測・地勢調査それに博物学などに卓抜した知識と経験を持ちながらも、心ならずも母国イギリスの意向のもとに、日本の国情の報告・貿易・通商の仕事などに従事させられるジレンマの中で、彼の高潔な性情に心酔する有能な部下にも恵まれ、危っかしくもなんとかその両立を図っていった。 おそらく豊田先生が、ブラキストンがあり余る才能を持ちながらも、規制された環境下にあって、あくまでも自分の心に忠実に有り続けようとした、純粋な「生き様」に魅かれたのは、まさにそこに先生自身の「生き様」のそれとオーヴァーラップするものを見出されたからではないだろうか。 彼のビジネスセンスは、まさに「武家の商法」ではあったが、例えば蒸気機関による製材所、青函連絡船の定期就航など、中途挫折したものの企業家として新しいものに取り組む術は充分持ち合わせていた。しかも彼のビジネスの神髄は、和人たちの迫害や搾取によって虐げられた人たち、「アイヌ」に対する深い愛情から発した、純粋な心情による彼らの産物の取り扱いにある。 乏しいながら塾長のビジネス経験に照らしてみれば、彼の事業の失敗の原因は手足となって動く忠実な部下はいたものの、彼に代わって事業に取り組む、いわゆる有能な「番頭」が不在であったことにあり、そのため(事業には成功しながらも)結局多額の回収不能に陥ったところにある。 もっとも彼にとっては、事業の失敗よりも北海道の鳥や動物を調べて回ること拒まれることの方がはるかに苦痛であった。彼の綿密な調査と研究は、次第にアマチュアの域を脱して行く。彼は東京での発表のチャンスを得て、北海道の動物が本土の種とは違っていることを発表して大きなセンセーションを巻き起こす。 彼の理解者ジョン・ミルン教授の提唱で、北海道と本州の間の津軽海峡を(両側の動物の種が異なるという)動物線として「ブラキストン線」と呼ばれる栄誉を担うことになった。これはアルフレッド・ウオーレスの発見になる(バリ島とロンボク島の間の)有袋類と真獣類の境界線「ウオーレス線」と並ぶものである。 本書にはこうしたブラキストンの魅力が生き生きと描かれて飽くところがない上、豊田先生の創作活動の可能性を一段と拡大したものと謂えるだろう。塾友ともども、今後の先生の一層新たなる活躍を期待したい。 |
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