鳥・インフルエンザの教えるもの

 年頭早々に、山口県でトリ・インフルエンザが発生した。これは家禽の法定 伝染病だが、日本では 実に79年ぶりの悪夢である。もっとも昨今アジア諸国 では数カ所で発生し、ヴェトナムでは昨年末 から今年にかけて5名の死者を出 し、韓国でも、ついにタイ、そしてインドネシアでも発生した。ト リ・インフ ルエンザの、日本への伝染経路もまだ不明であり風評被害も大きいことから、なんとして もこれ以上拡がらず早期終結を望みたい。

 昨年暮れから、中国でのSARSの再発、アメリカのBSE(狂牛病)発生 という、いずれも動物 由来の伝染病が相次いだ。こうした傾向は、人の移動の大きさに比例する形で被害が拡大される。なに しろ現在では、年間8億人の人が航空機で移動するというボーダーレス時代である。かつてはごく限ら れた地方の風土病に過ぎなかった疾病が、あっというまに全世界に拡散してしまう。

 日本政府(農水省)は、アメリカからの牛肉、タイからのトリ肉の輸入を全面禁止したが、いずれも 消費者や外食業者に多大な被害をもたらすことを考え、いたずらに恐怖心だけを増長する面も考慮して 対応してほしいものだ。  最近では、発生源として家畜・家禽に限らず、エイズやエボラ出血熱、西ナイル病のように、野生の 動物からの感染も増え始めている。コンピュータウイルスは、あたかもそうした疾病の伝播を参考にし て、インターネットを舞台に被害を拡大している感すらある。

 またBSEは、病原体がウイルスや菌でなく変性型タンパク質という特異な病気である。BSE=牛 脳軟化症は、人ではCJS(クロイツフェルト・ヤコブ病)と呼ばれ、一見別の病気のように思われが ちだが、すでに牛の硬膜の使用で、日本でもかなりの数発生していることを知る必要がある。

 リャチード・ローズ『死の原体プリオン (草思社)』は、ニューギニアの原住民に発生した「クール ー」という死に至る奇病の原因を、死人の肉を食べたことが原因だった事実、アメリカで飼育されてい るミンクが、共食いを始めたことから生じた同様の症状を示す例も挙げて、変性型タンパク質による一 環の病気を「共食い(例えば牛(または羊)の肉骨粉を牛(または羊)に食べさるという行為が原因」 だ と指摘している。

 病原体も、ウイルスからいろんなタイプの病原性細菌、原虫など多様であるが、動物界の頂点に立ち 自然の生態系から独立したヒト生態系を確立した人類に取って、「すでに敵なし」のはずが、もっとも原 始的な生物あるいは生物とも見なされていないような細菌やウイルスに戦々競々するとはまことに皮肉 なことである。

 人類はまた、他の動物がタブーとする「同種大量殺戮」を行ってきた。この2つの事実は、「最強の種 となりおおせた人が増え過ぎることを調節するために、神が仕組んだ(一種の天敵としての)自然調節 システム」だといえないだろうか。

 なにしろそれでもまだ人は増え続けているのだ。加えるならば、日本を始め先進国における小子化の 現象や栄養過多による生活習慣病なども、こうした人口自然調整という、目に見えない枠組みの一つな のかも知れない。

 話を戻して、普通トリの病気は体温の違う人には感染しないといわれてきた。ところがトリと人のウ イルスが、ブタの同じ細胞内に入ったとき、人型に変異を起こすことがわかってきた。かつて「スペイ ン風邪」とよばれ、三千万人の命を奪ったといわれるインフルエンザも、実際には広東省で生まれ香港 で孵化したニワトリ由来の病気が、スペインの貴族に感染・発病させたところから名されたものである。 ブタやニワトリと同居するといわれる広東省の生活環境と旺盛な食欲と食文化、食物市場の形態そして 衛生観念の低さが、密集した香港で爆発的に増幅され、加えてこの国の持つ隠蔽性質がSARSの爆発 的流行を生み出したのでる。

 さて、SARS流行の中で一人の患者も出さなかった日本、それは単なる僥倖なのか、それとも世界 でもっとも清潔好きな民族といわれるせいなのか、これからの展開で明確にされていくだろう。

 一方日本では、清潔好きが高じて抗菌グッズなどに囲まれ、抗生物質を多用するなど、ますます(細 菌などに対する)抵抗力を低下させ続けていることが、どんな結果を生むのかも注目されるところであ る。

 なにしろ1万年におよぶ人と動物のかかわりの中で、おそるべき数の伝染病が家畜や家禽から人に感 染し発生しているのだ。この事実は、人がいかに自分たちの思うがままに動物に接し、種の尊厳を思う がままに捩じ曲げてきたかを示しており、今の状況はそれに対する彼らからの手厳しいシッペ返しなの だということを教えてくれる。私たちはある意味で「肉食文明」の崩壊の兆しと厳粛に受けとめ、謙虚 に反省しなければならない。


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