堤と堀の物語

 おわかりと思うが、これは「株式」を巡ってお騒がせ中の、堤義明と堀江貴文という新旧二大スターをもじったものである。彼らは同じ「株式の世界」で、法に抵触すれすれの策略を駆使することで名を馳せながらも、あまりに違った横顔を見せていることに驚くばかりだ。これも時代の流れというものだろう。

 この両者の違いとは一体どんなものなのだろうか。堤は亡父の教えを順守して資産を個人のものせず、会社の土地と株式に置き換え、しかも利益のほとんどを土地買収と設備投資に還元することで、膨大な資産を作り上げた。しかも株が他人に渡ことを極端に恐れるあまり、西武鉄道株の85%を親会社コクドが握ったことから、上場廃止の危機を招来したため、 株式の所有名義の虚偽記載が発覚して墓穴を掘った。

 なお今回の事件が、あれだけ長い間放置されていながら急に表面化し、いやしくも日本のトップ経営者に逮捕という恥辱を強いたのは、アングロ・ユダヤの陰謀説だと指摘する向きもある。なぜなら他人になんら実害を与えていない西武を今暴きたてて実刑を科せば、西武の土地資産がハゲタカ金融業者共に狙われるというだが、早速ゴールドマン・サックスが名乗りをあげてきた。

 さてライブドアとフジ・サンケイ・グループの攻防はどうか。経緯を見ると堀江は、市場システムの裏の裏を徹底的に調べあげ、IT産業という本業とは別に、買収に次ぐ買収で会社規模を拡大していった。彼の徹底した企業買収の手法は、塾長の口癖である<農耕文化VS狩猟文化>という構図そのもので、彼は市場経済という「狩猟文化」の申し子であり代表選手である。

 堀江の「小が大をのみ込む」手法には、まず株式の分割というテクニックがある。彼は今まで数次に亘り、大は1:100、小は1:10という株式の分割を繰り返している。これには株の些少感からくる高値を、買いやすい価格にするという目的の裏に、株式所有者がその書き替えを済ますまでは株を売れないというタイムラグを巧妙に利用して、一時的に膨れ上がった所有株をテコにして、ターゲットとする株式を買い進めて買収していったといわれる。

 もう一つがご存じの時間外買い付けという手法で、日本放送にTOB(株式公開買い付け)を掛けていた、フジ・サンケイ・グループの裏をかいてアッと言わせたのである。いずれも現民法では認められている合法手段だといわれながら、大量買い付けに違反性がないかが問われる中、盲点を突いて後追いの法整備を嘲笑うような彼の思想と手法が、世間の耳目を集めた。

 さてこうした企業の思惑を無視し、株主の権利を主張して行う買収システムだが、今では本家のアメリカでも、企業理念を無視した不毛の買収劇の生む弊害の大きさから、次第に自粛の方向に向かっているという。たとえばあれだけ騒がれたIT産業AOLとメデイア王タイムワーナーの合併も挫折した。

 冷静に考えれば、これは「法に抵触しなければ何をやってもいい」という狩猟に根差した異文化モラル=金融市場という虚業と、実業との対決という問題であって、日本の多くの企業に企業防衛意識が希薄だといえばそれまでだが、ただ現状日本における「社員優先という企業理念」と「株主優先の市場経済」との対決の構造の中で、いずれも顧客を忘れ去っている仕組みは、いわば本質そっちのけの論理であって、早晩意識改革されてしかるべきものではないか。我々はこの問題を決して単なる新旧対決という視点で捉えたり、興味本意の野次馬根性で見るべきではない。

 かつてこうした敵対取引が横行したアメリカにおいて、当然幾つもの防衛策曰く「鮫避け策」が生まれた。これもネット上で調べたところ、あるは、あるは! 詳しい解説を省略して、ここでは例だけを挙げてみると、 クラウンジュエル(王冠の宝石)≒(焦土作戦)・ホワイトナイト(白馬の騎士)・ポイゾン・ピル(毒薬)・パックマン・ディフェンス(逆買収)・ゴールデンパラシュートなどなど…。

 もちろん買収側にも同じような「乗っ取り作戦要項」が揃っている。通常戦いでは、始めに攻める方が数段有利である。当然第一ラウンドでは、ライブドア側が優勢であった。つづく第2ラウンド、今度はフジサイドにソフトバンクの登場。はたしてそれは「白馬の騎士」なのか、はたまた一転、今度はパックマンとして目障りなライブドアを飲み込もうというのだろうか。ますます目が離せなくなってきた。

 農耕民族日本人にとっては、こうした市場原理こそ、権謀術数の飛び交う狩猟テクノロジーそのものである。さてこの勝負、今後どのような展開を示すのか。遊牧の民の得意とする「弱肉強食」という資本主義社会では、結果として一部の富裕階級が、多くの貧困階級の上に立つという社会を生む。日本はいま、グロバリゼーションという名の「狩猟→遊牧メカニズム」によって、世界一平等で平和な社会が破壊され、不平等な社会にされようとしている現実に気付かなければならない。

 さて堀江に金を出したリーマンブラザースの裏には、日本放送に怨念を持つ村上ファンドや、米ハゲタカファンドの姿も見え隠れするのだが、堀江が一転彼らに対抗する手段は、すでに「想定済み」のことなのだろうか。

 さて堀江の次なる一手は、サンケイとの和解か、それとも(相手の資産を担保に買収を掛ける)FTOなのか? 堀江の裏に(真性保守を標榜する)サンケイグループの支配という、もう一つの闇の力の存在と思惑が見え隠れしている。これはサンケイ新聞(および正論誌)の読者の存在を無視し、言論の自由を奪おうとするなら由々しき事態だといわねばならない。

 いま我々は、多発する近辺諸国の領有権侵害問題と併せ、面白半分にこの問題の経緯を見つめるだけでいいのだろうか。この号の出た後もその動向や展開はつかめない。結果次第では、次号も関連した時評を提示したい。


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