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緑保全のための試案 ・・・ 植樹トラスト (1)
★ 農村の現状を直視しよう
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高度成長期に農村より労働力が大挙して都市部に流出して以来、農業生産及び生活環境の激変によって、日本の悲惨な農村事情が表面化し、且つ破綻して以来、一向に改善されぬまま奈落の底に沈んで久しい。
加えて昨今世界的な食糧危機という新しい側面が浮上することで、違った意味で日本農業の有り様が問われることになった。いまさら農水省の「コメ最優先政策」という歪な施策の問題点を取り上げるつもりはないが、私たちは結果として農村の現状事情を冷静な目で凝視していかねがならない。
干拓事業による農地造成によってコメ増産に着手したと思ったら、一転減反政策によって振回される篤農家たち。かくして農民の出稼ぎから離農、それに老齢化や過疎化に拍車がかかっていったのである。
国土庁の報告によれば、1960年から98年までの38年間に、過疎地域で消滅した集落が全国で1712か所にのぼり、しかも今後2200の集落が限界集落を経て消滅の可能性があるという。
とくに作業効率の悪い棚田や、ガスや灯油の普及で手入れが行われなくなり、荒廃していった里山などに代表される中山間地が、かつての日本の風物詩としての役割を閉じようとしているのだ。
悲しいことにいまや日本の農村は、無人地帯が拡がり、まさに荒れ地となり果てんとしている。弥生に発する「コメ文化」は、もはや名のみの存在でしかない。
たしかに棚田保護を叫ぶボランテイア達の尽力で、いくつかの棚田が保護され復活してはいるが、水田の一割におよぶという辺鄙な場所の棚田にまで、すべて援助の手を差し延べることは不可能だろう。実のところ現在の農家にとっては、すでにそれらを保全する意思も能力もないのだ。
しかも世界的食糧危機が取り上げる中で、疲弊した老齢層主体の農業事情を放置したまま、一般からの農業参入に有形無形のバリアを張り、減反制度の撤廃を渋り、新規指針もままならない国の農業施策を見ると、まさに「百年河清を待つ」感がある。
ここではそうした事情に対して、いささか違った視点で新しい農村の未来図を提示してみたい。それは荒廃した放置田・休作田、それに棚田・里山の活用による復活ドラマのシナリオである。
★ 「植樹トラスト・プラン」
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ここで提示する「植樹トラスト」運動の真意は、あらたにスタートさせてほしい新林野庁の役割として、森林レンジャー・森林ボランティアを教育・育成して、正しい森林保護に活躍してもらうことを前提に、そうした活動の具体化の一環として「植樹トラスト・プラン」を提示したい。
この素案は、もちろんイギリスのナショナル・トラスト(the National Trust)である。
ナショナル・トラストは、イギリスで1895年に3人の篤志家が「自然と史跡の保存」を目的で設立した民間団体である。「自然のものは国民全体の共有財産であり、国民全体の意志でそれを保存しよう」というのが主旨で、一般の人たちからの寄付を募り、集まった資金を信託して自然と史跡の保護を行ってきたものである。
日本においては、北海道の自然を守ろうという「知床100㎡運動」とか、ゴルフ場反対のために立ち木オーナーを募集するという「立ち木トラスト」などが知られているが、いずれの一過性運動であって、残念ながら日本においては、ナショナル・トラストに匹敵する永続的で効果のある運動の定着のきざしは見られない。
それは日本におけるこうした運動が、特定の場所において問題が発生した場合にだけ、その対症療法として一時的に盛り上がりは見せるものの、恒久的な運動としていくだけの理念と計画性に欠けるからである。全国的な運動としていく場合、最大公約数的共通項として、一貫したコンセプトとそれを継続していく忍耐力と優れた仕組みこそ不可欠なのである。
ウエールズの出身で、日本に帰化して長野県の黒姫山山麓に住み、自らを「ケルト系日本人」と呼んでいるC・W・ニコルは、
「確かにカヴァー率だけは70%と大きい日本の森林は、稚拙極まりない農林行政や住民の無理解もあって、貴重な資産原生林はわずか2%程度という惨状を呈している」
と指摘し、加えて
「日本はこれだけ美しい国立公園や広い森林を持ちながら、──カナダで4000人、アメリカ9000人、イギリスでも1000人の森林レンジャーがいるというのに──林野庁の役人でさえ実地に出ることがほとんどなく、デスクワークを本業と思い込んでいる人たちばかりで、なんと実際に森の中で活躍する森林レンジャーは100名にも満たない」
と日本の信じられない現状を憂えている。
農業に加えて林業の悲惨な問題も大きいが、それは又別の機会に論及したい。
★ 「植樹トラスト・プラン」とは
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さて「植樹トラスト」プランは、全国的に放置されてきた棚田・休耕田を中心にして、間伐すら放棄されたスギ・ヒノキ単一林の蘇生、それに荒廃しきった里山の復活などに適用しようというものである。
すなわち各地の林野庁の職員(あるいは退職者)がリーダー兼コーディネーターとなって、そうした遊休農林地の持ち主と森林ボランティア・NPO、それに一般の人たちで構成された植樹ボランティアを結びつけることで、日本の森林活性化をはかろうというものである。
仕組みはいたって簡単で、
1.休耕田や林地提供者
2.樹木の苗木代金と手入れ作業費を負担する「樹木オーナー」
3.実際に植樹や手入れを行うボランティア
で構成する。(1)の提供した場所に(2)の提供した樹木を(3)が植樹や手入れを行うという仕組みである。 もちろん(1)が(3)を兼ねることも出来る。
植える樹木は(オーナーの希望も入れてだが)ドングリ・クルミ・クリなどの堅果のなる樹木、カキ(柿)・アンズ(杏)・イチジク(無花果)・モモなどの果実のなる落葉広葉樹、それに椎茸栽培のためのクヌギ、それに備長炭のためのウバメガシなどとする。
あるいはウメ・サクラなど花見を楽しめるものとか、地元の工房とドッキングして、クワ(桑)・ミツマタ(三椏)・コウゾ(楮)、それにウルシなど「絹・和紙・漆器」の地域振興のため再生産をはかるものであってもよい。
★ 森との共生を願う「植樹トラストプラン」
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スギ・ヒノキの単一林は野生動物の食料を奪い花粉症を蔓延させ、土石流の被害を大きくしてきた。適当な間伐・伐採と同時に、ブナ・ナラ・カシ・ケヤキなどの混成林として復活させることがいま求められている。温暖化現象で異常繁殖する(モウソウダケの)竹林の抑制も急務である。
従来棚田・スギ林にしても、野生動物の食料を奪ってきたことで被害を生んできた。最近のクマやイノシシ・シカ・サルなど野生動物による農作物の被害は、こうした共生の仕組みを逸脱したヒトへのしっぺ返しだと知るである。その上人間は、彼らの天敵であるオオカミを絶滅させてきたのだ。
さて一方農薬・化学肥料に遺存した農業は、カエル(蛙)・タニシ(田螺)・トンボ(蜻蛉)・ドジョウ(泥鰌)、それにホタル(蛍)やメダカ(目高)まで失わせてしまった。そうした意味からみても、当然野生動物のエサという視点を織り込んだ植樹トラストは、かつてのヒトと野生動物の共生時代、今様に言えば「ビオトープ」への回帰であり接点の復活という側面も持っている。
加えて同案は、「マチとムラの交流」という新しい接点の創成でもある。戦後の農業が失ってきた、神々まで巻き込んだ、「生きとし生けるもの」の集い遊ぶ場、「依り代」なのである。
<以下次回へつづく>