一本のみちのさなかで
このみちを
さっきまでのぼりつめてきた気がするし
ずいぶんまえからこうして
ぼんやりたちつくしている気もする
のぼりきったこの場所には
みちをはさむきりたった崖と
のしかかる時空の重みを
かろうじてささえて
マッチのもえかすのような黒い幹が
たちならんでいるだけである
濃い霧がすべてをおしつつんでいるなかで
ぼくだけがとりのこされ
蛹のようにおしだまっている
よく出会う風景だが
このさき海が青くひろがっているのか
みちがつかいふるした繃帯のように
のびきっているのか
あるいはなにもかも
このみじかい視野の外側で
燃えつきてしまったのかもしれない
ぼくは途方にくれてふりかえる
するとどうだ
たどったはずの幾多の屈折も遍歴も
いっさいがっさいすっかり消えてしまっている
道標もない
たった一本のみちのさなかで
瞬時に指向する方とうず高い歩行の集積とを
失ってしまったぼくの動作は
まるでくるった磁石の指針だ
記憶の容器にはおそらく
ふたも底もないのだろう
まばたきすすらきこえぬ
乳白色の静寂の中で
くだけちったぼくの破片をつなぎ合わせた
ぎごちないキャタピラで
盲いた複眼を覆って歩こう
ぼくをとりかこむいたましい繭を背負い
ひょっとすると過去かもしれない未来に向かって…